- 2026.07.31
- Column
あたらしいことコラム 2026.07月号
◎初めに
7月も終わりに近づいて来ました。これからまだまだ暑い日々が続くかと思われますが、最近自宅にいるとこの暑さを一瞬忘れてしまいます。自宅のどこに居ても暑い・寒いを感じず、空気が爽やかな環境に居るからです。
実は昨年末、パッシブハウス(認定申請予定)の自邸を完成させ、寒い1月から猛暑のこの時期まで約半年を過ごしました。意匠設計、構造設計、各種申請、施工監督、施工管理まで自ら行い、建築計画前から検証と実証がほぼイコールとなるメソッド(パッシブハウス)を取り入れ、その効果を確かめたいという思いで株式会社あたらしいことのコンサルティングを受けていました。
その詳しい経緯やコンサルティングの効果については後日お話しするとして、本日は住んで直ぐ家族から指摘を受けた、ある「快適性」に関する事象についてレポートします。
◎住まいの快適性とは
今や当たり前となった「高気密・高断熱」というキーワード。 このワードを使う工務店が増え、SNSでは「高気密・高断熱・快適・健康・自然素材」といった言葉が並列して語られることが多くなりました。
しかし本来、高気密・高断熱は器の性能を表すものであり、省エネ性という“ファクト”です。
一方で快適性とは住まい手の主観であり、住まい手の条件や価値観によって変動します。住まい手が何を求めるかによって、器の性能のどこを強化すべきかが変わってくるのです。
そもそも住まう上での快適性とは何でしょうか。
• 温度が一定(冬は寒くない、夏は暑くない)
• 湿度が一定(湿度50~60%)
• 家じゅう温度差がない・温度むらが無い
• 風を感じる(通風)
• カビくさくない
• 窓から外の景色が楽しめる
• 鳥のさえずりが聞こえる
など様々です。
例えば、窓から外の景色を楽しみたいと思っているにも関わらず、断熱性を上げるために窓を小さくしてしまえば、求める快適性は得られません。この場合、断熱強化すべきは壁ではなく窓になります。
どう住まいたいかを住まい手が明快にすること。まずはそこから始めることが大事ではないでしょうか。
◎自邸の快適性はどうであったか
ここで本題に入ります。半年経って、自邸の快適性はどうであったか。
家に入った瞬間、なんとも言えない清々しさを感じます。匂いもなく、空気質が良く、温度と湿度が一定に保たれていて家じゅう不快なく歩き回れる。まさに求めていたもの、いやそれ以上でした。窓は大きく開放的で、自然や季節を感じることができます。
熟睡するようになり体調が改善したと感じるようになりました。しかしここで
家族から「音」について質問を受けました。 「こんなに聞こえるもの?」
高断熱・高気密化したことで外部の音がかなり遮断されることはご承知の通りかと思います。
音は
1. 空気を介して
2. 個体を介して
3. 水を介して 伝わります。
空気を介して伝わる音(主に人の話し声)は、高気密化により空気の流れが遮断されるため大きく低減します。壁を介して伝わる音(低周波音、車、バイクの音など)は、高断熱化により壁が厚くなることで伝わり難くなります。外部の音が車や飛行機などの”騒音”であれば、室内の快適性は増したと言えるでしょう。
しかしその反対に、室内で発生した音はどうなるのでしょうか。
壁や家具に吸収される、壁に跳ね返される、室内の他の場所へ伝達する──この吸収量が少ないと、家の中で音が響きやすく、反響が生まれます。結果として、これまで気にしてこなかった小さなノイズが聞き取れるようになり、家族のトイレの音が気になり始めるという現象が起きました。建物内の音に敏感になったと表現すれば良いのでしょうか。不快とまでは言いませんが、「対策はなかったのか」という指摘につながりました。
では前もってどのような対策が可能だったのでしょうか。 室内の壁に音を吸収しやすい材(有孔ボード、木材)を多用する、家具を多めに入れる、絨毯を敷く、トイレを防音扉にするなどが考えられます。ただ、その効果がどれほどかという”検証”ができないと、事前に判断することは難しいのが現実です。
天井には意匠的に無垢材を張りたいと思っていましたが、コスト的に断念しました。
この段階で音の検証ツールでもあれば、再考した可能性があったかもしれません。
◎終わりに
実体験から得た感覚を生の声としてフィードバックし、今後の課題とすると共に、どう改善したかのレポートも行っていこうと思います。
今後も、建物の性能を上げることで新たな事象が出てくるかもしれません。快適性が住まい手の主観である限り、その感性に柔軟に対応することが設計士に求められる技量であると痛感している次第です。
著/近藤 絹代
